北海道パフォーマンス

HOKKAIDO PERFORMANCE

2020.1.11-12

北の歴史が、文化が、
記憶の岸辺で新たな“混流”を
果たした感動の2日間
  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

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  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

  • 撮影:篠山紀信

野田秀樹率いる東京キャラバン in 北海道は、1月11日(土)、12(日)、札幌市東区のモエレ沼公園 ガラスのピラミッドにて開催された。

この公園の基本設計を手掛けたのは、彫刻家のイサム・ノグチである。同園のシンボルであるガラスのピラミッドはスケルトンのため、晴天の昼間は自然光が射し、積もった雪の白が眩しいほどに良く映える。その一方で、夕暮れから夜間は、樹木と雪のコントラストが幻想的な風景を描き出す。

今回、特設された舞台は、そうした園内の風景を背にする状態で設営された。上演時間(※両日ともに12時30分からと16時30分)によって背景の彩りが変わるのもまた、この公演の「一度限り」という特色のひとつとなった。

定刻を迎えると、客席の後方から登場したのは、男鹿のなまはげだった。北海道公演の口火を、2018、19年の「東京キャラバンin秋田」に参加した秋田のアーティストが切ったのだ。「泣ぐごはいねぇがー!?」、「なまけものはいねがー!?」。所狭しと練り歩き、時に眼前まで迫ってくるなまはげの迫力と愛嬌に、客席のそこかしこから笑みが漏れる。

「♪カムイランナー トーランナー ホッランナ ホッランナ」。なまはげの雄叫びにかぶさって聴こえてきた伸びやかな歌声は、千歳地方のアイヌの演舞「ホリッパ(輪踊り)」の一節だった。

アイヌ舞踊の女性たちが姿を現す。程なく彼女たちは「♪フントリ フンチカㇷ゚ ア〜ァホ〜ォ〜」という歌声にのって、上着の裾を翻し、羽ばたくように舞って「サロルンリㇺセ(鶴の舞)」を踊る。すると今度は三線の音色と共に、琉球舞踊の地謡による「鷲ぬ鳥節」(ばしんとぅぶし)」にのって、彼らの立方(=踊り手)が現れ、「「鷲ぬ鳥」(ばしんとぅ)」の踊りを披露していく。

沖縄の琉球舞踊は、2015年の「東京キャラバン〜プロローグ〜」にも参加したアーティストである。刹那、アイヌと琉球の歌と踊りが不思議なほどに渾然一体となり、おそらくはこれまでになかったはずの神秘的な調べが会場を包み込む。

アイヌの面々が去ると、突如、琉球舞踊の立方を取り囲むように、‟東京キャラバン”アンサンブルの面々が雪崩れ込んできた。慌ただしく動き回りながら、一様に携帯電話を操作しているようなゼスチャーを続ける。悠久の時を継がれてきた琉球民謡と現代社会を生きる人々の描写が、舞台上に不思議な時間軸を描き出していく。

そして立方と入れ替わる形でプリズム素材が貼られたフラフープを携えたアンサンブルが現れると、プラハに拠点を置いている北海道出身の人形劇師、沢則行が登場した。沢が人形を手に演じるのは、自身が「オホーツク人」をテーマに創りあげた戯曲「OKHOTSK」の一節だ。舞台後方の紗幕では、詩情溢れる影絵や砂絵が映し出されている。

波音を想起させる音楽が止んだ瞬間、舞台中央に立っていたのは木村カエラだった。彼女はアコースティックギターをかき鳴らすと、自身の代表曲である「リルラリルハ」を歌い始めた。彼女の頭上には、アンサンブルの手によって凧が泳いでいる。見つめることを、感じることを忘れないでという、観客に語りかけるような彼女の歌声がこだまする。

そんな木村の歌声とクロスフェードするように、アイヌ舞踊の女性たちが「フッタレチュイ(黒髪の舞)」を歌い始めた。そこに琉球舞踊の「「揚作田節」(あげちくてんぶし)」の調べが交わると、「フッタレチュイ(黒髪の舞)」と「揚作田(あげちくてん)」という二つの異なる舞いが見事にフュージョンしていく。幻想的な舞台の様子を、観客はただただ静かに見守っている。

木村が去ると、再びフラフープを携えたアンサンブルと沢が現れた。彼の手が操るのは首のみの女帝だ。すると紗幕がその首に覆いかぶさる。不穏な音と闇。光るプリズム。女帝の首はミステリアスに宙を飛び、アンサンブルが着た着ぐるみのような大きな魚の人形と対峙する。

ここで突如、照明と音楽が激しさを増す。海老や蟹、蛙といった人形が舞台に加わり、アンサンブルとともに身体を震わせ踊ると、急に音楽がぴたりと鳴り止んだ。

そこに登場したのは、江差追分の面々だった。尺八の音と「ソイ」という合いの手が特徴的なソイ掛けと共に、数々の民謡大会で受賞歴を持つライリー大仁が朗朗と本歌を歌う。その周りでは魚や海老、蟹たちとプリズムフラフープが緩やか動いている。そしてライリー大仁が歌い終えると、その喉を賞賛するように観客から拍手が起こった。

海の底を想起させるようなぶくぶくという音のなか、貝の人形が現れて、桃太郎の桃のようにぱかっと割れた。産声と共に現れたのは木村カエラだった。携えた書物には、「誕生日〜記憶の岸辺」と記されている。

「私は、これまでどれだけのことを覚えて、どれだけのことを忘れてきただろう。
幾億のことを記憶し、幾億のことを忘却してきただろう。」

野田秀樹が書いたその戯曲を、木村は情感を込めて読み上げていく。札幌を拠点に活動中の山木将平がアコースティックギターを弾く。木村が歌い始めたのは、ミュージカル「アニー」の「トゥモロー」だった。その彼女の前を、アンサンブルの面々が過ぎ去った時間を顧みなるような仕草を見せながら、緩やかな歩みで通り過ぎていく。木村は、朝の訪れと共に明日を信じる希望の歌を高らかに歌い上げた。

再び戯曲に戻る。物語の中の“私”は、17歳の誕生日に、“好きだった男の子”から“薔薇”という漢字を教わる。木村の演じる“私”は、彼とのちょっと不思議な、しかし大切なやりとりの記憶を読み上げていく。アンサンブルが演じる“私”の友人たちが、踊る椅子やテーブルの役を演じていく。彼が“私”にくれたのは、“恋心”だった。

やおら、山木のギターにのせて木村が歌い始めたのは、ザ・ビートルズの「イエスタデイ」だった。過去を慈しむように歌う彼女の脇を、今度は時間が巻き戻されるような歩みでアンサンブルが通り過ぎていく。

彼女が歌い終えると、舞台はまた戯曲へと戻る。71歳になった“私”は彼と夫婦になっていた。

「私達は、幾億のことを記憶し、幾億のことを忘却してきたのだろう。
そして、記憶の岸辺から遠ざかる日、誰もが、この世を去っていく」

木村が最後のくだりを読み終えると、ベールが舞台を駆け抜け、全てを消し去った。

やがて、沢の人形の出現を合図に、アイヌ舞踊の「エムㇱリㇺセ(剣の舞)」が聴こえてきた。さらに男鹿のなまはげが現れ、全てのキャストが雪崩れ込んでくると、自然と手を繋ぎ、一つの大きな輪を作る。それに呼応するように、歌が「ポロリㇺセ(輪踊り)」に変わった。それは神と人間が一体となって喜びを分かち合うために、アイヌから神へと呼びかける踊り歌である。

一同は笑顔で闊歩し、共に歌い、踊り合いながら、舞台の袖へと帰って行った。観客の手拍子があたたかな拍手へと変わり、舞台はその幕を閉じたのだった。

そしてカーテンコール。木村があらためて全キャストを呼び込むと、観客から賞賛の拍手が送られた。撮影を担当した篠山紀信も紹介された(※11日のみ)。木村は今回が初の朗読劇への挑戦だった。各々のキャストにとっても、全く新しい体験だったに違いない。

過去の蓄積が歴史となり、文化となり、記憶となる。そして今を生きる人々は、日々の生活のなかで出会いと忘却を愛しみながらも、文化を繋ぎ、未来への憧憬を抱いていく。そんな情景を描く過程で、北海道、東北、東京、沖縄の人々が、文化が、舞台で繋がった。野田が2015年のプロローグから掲げてきた通りの“文化混流”が鮮やかに具現化された、清々しいフィナーレだった。

(ライター・内田正樹)

開催概要

開催日時

2020年1月11日(土)12:30〜/16:30〜
2020年1月12日(日)12:30〜/16:30〜

会場

モエレ沼公園ガラスのピラミッド(北海道札幌市東区モエレ沼公園1-1)

参加アーティスト

野田秀樹(劇作家・演出家・役者)、木村カエラ(アーティスト)、“東京キャラバン”アンサンブル
(石川詩織、上村聡、川原田樹、近藤彩香、末冨真由、手代木花野、福島彩子、松本誠、的場祐太、吉田朋弘)、沢則行(人形劇師)、黒川絵里奈(切り絵)、中川有子(造形)、山木将平(ミュージシャン)、アイヌ古式舞踊(公益社団法人北海道アイヌ協会:秋辺日出男、荒田裕樹、貝澤太一、加納ルミ子、川上さやか、川村久恵、酒井学、酒井真理、篠田マナ、早坂駿、早坂ユカ、早坂由似、藤岡千代美、山道ヒビキ、渡邊かよ)、江差追分(ライリー大仁、ライリー千春、木村和昭)、琉球舞踊(立方:阿嘉修、佐辺良和、大浜暢明、玉城匠 地謡:玉城和樹、和田信一)、男鹿のなまはげ(佐藤真一、菅原雄一、関一彦、安田春一)

参加クリエイター

服部基(照明)、原摩利彦(音楽)、ひびのこづえ(衣装)、赤松絵利(ヘアメイク)、篠山紀信(写真)、青木兼治(映像)

主催

東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、北海道

協力

北海道舞台塾実行委員会(公益財団法人北海道文化財団・北海道)

事業協力

男鹿市、公益財団法人アイヌ民族文化財団、白老民族芸能保存会

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