岡山

OKAYAMA

2019.12.8

岡山への思いが詰まった小さな物語たちがともした、
あたたかな明かり。

白壁の美しい建物が並び、川が街中をゆったりと流れる岡山・倉敷美観地区。晴れ渡る空の下、「東京キャラバン in 岡山」は12月8日、出演者による街頭のパレードでスタートした。「『市井の人々を描いた小さな物語』と『小さなパレード』をやろうと目論んだ」とリーディングアーティストを務めた脚本家・演出家の福原充則。

隊列が出発すると、鐘や太鼓の音、動きの大きな楽しい踊りに誘われて、大勢の人たちが集まってきた。祝祭感とノスタルジーとが共存した音楽は、東京からの出演者で、音楽家・俳優の西山宏幸の作曲。岡山から参加の赤田晃一のサックスが、ぬくもりある音色で旋律を奏でる。

東京から俳優の板橋駿谷、亀田梨紗、嶋村太一、寺井義貴、永島敬三、福原冠、振付家でもある中林舞。岡山からマルチアーティストの大西千夏、ダンサーの加賀美幹、武内浩一、パフォーマーの山口佳子、そして備中神楽「芳友会」の清水賢二郎、宮原和輝、山木光太郎が参加。各々、顔にどんと描かれている、岡山県をかたどったペイントが目を引く。「東京キャラバン in 岡山です。倉敷物語館でお芝居をします」と呼びかけながら歩けば、出演者の後ろには、人々が期待に満ちた顔で導かれるように列をなして続く。

江戸期の建物という倉敷物語館の庭に面した計16畳の和室がステージ。庭の観客用のいすはあっという間に埋まり、その後ろに幾重にも人垣ができる大入り。上演されたのは、1本あたり3分から11分ほどの物語、計8本。12時、14時、16時の3回の公演で、8本の中から6本ずつ披露した。岡山の出身者にインタビューし、その一部を舞台上に立ち上げるという手法で創作した。

進行役の西山がギターを手に登壇し「サックス奏者の赤田さんがきびだんごを一口食べたらお芝居が始まります」と呼びかけると、ほどなくして赤田が登場。縁側に腰掛け、ユーモアたっぷりの仕草できびだんごをほおばると客席から大きな笑い声。さあ、始まりだ。

『50メートルの恋』は、岡山出身の嶋村の父の話をもとに、嶋村の両親のなれそめを描いた。さわやかな愛の物語に、観客は自然と笑顔になる。幼い頃に父を亡くした男性の生い立ちと母への思いをユーモアも交えて描いた『一本気 重岡君!!』、女優を目指して岡山を離れた女性の家族とのやりとりにじんわり胸があたたまる『私の岡山』、岡山の名物ラーメン店をラップ風に紹介する『ラーメンエブリデー』、出演者の永島が、同じく出演者の武内にインタビューした話をもとに思春期の自我を描いた『前も見れない』。「個」の物語が持つきらめきが、誰しも抱いたことのある普遍的な思いへとつながっていく作品たちだ。

芝居で使われた岡山の言葉は、岡山のパフォーマーが東京の俳優陣に教えた。「方言のニュアンスの面白さを感じられた」と東京から参加の福原。板橋も「方言をしゃべると生活がにじむ」と実感を語ってくれた。岡山から参加の大西は「岡山の良さを見つけてくださる創作で、自分自身も故郷のいいところを再認識できた」、パフォーマーの山口は「ここに暮らしている人たちを丁寧に受け取ってくださった」と語る。言葉や物語を一つ一つ手渡し受け取る、今回のような創作もまた〝文化混流〟のありようだと感じた。

各回共通の演目が3部構成の『小渕と韮沢』。岡山駅で偶然会った高校の同級生の男女、小渕(板橋)と韮沢(亀田)の物語だ。卒業後、東京でホテルマンになる小渕、大阪の大学に進学する韮沢。小渕は韮沢に恋心を打ち明けるが、韮沢にすげなくされて…。岡山弁の軽妙な掛け合いや小渕のもどかしい恋路に、客席は笑いに包まれる。

故郷を離れてもかつて参加していた「備中神楽」への思いが断ち切れない小渕、一方の韮沢は好きなダンスを続けていくのか…。夢と現実のはざまで悩む等身大の若者の姿が切ない。帰郷した小渕は備中神楽の太夫たちに再び仲間に入れてほしいと頼む。この太夫3人は実際、20代ながら約20年のキャリアがあるという。清水の「正直、仕事と両立するのが大変な時もあるけどさ、一生治らないハシカにかかったみたいなもんじゃけんな」という神楽への思いがこもったセリフには無二の説得力があった。

小渕の悩みを吹き飛ばすように、宮原と山木が勇壮な舞を披露。息をのむほどの激しさとキレの良さに客席からも感嘆のため息がもれ、「神楽があんなにカッコいい、って知らなかった」との声も聞こえた。最後は神楽の太鼓のリズムに、街角のパレードの旋律が重なって、舞台上で出演者全員がダンス。客席も手拍子で大いに盛り上がった。

パレードの観覧客は計5550人、芝居には子供からお年寄りまで計1000人が足を運んだ「東京キャラバン in 岡山」。師走のひととき、あたたかな時間と空間をともにした観客や出演者は、「小さな物語」が胸にともした光を携えて、それぞれの日々へと戻っていった。

(ライター・白坂美季/共同通信社文化部)

開催概要

開催日時

2019年12月8日(日)12:00~、14:00~、16:00~

会場

倉敷物語館(岡山県倉敷市阿知2丁目23-18)

参加アーティスト

福原充則(脚本家・演出家)、〈以下五十音順〉赤田晃一(サックス奏者)、板橋駿谷(俳優)、大西千夏(マルチアーティスト)、加賀美幹(ダンサー)、亀田梨紗(俳優)、嶋村太一(俳優)、武内浩一(ダンサー)、寺井義貴(俳優)、永島敬三(俳優)、中林舞(振付家・俳優)、西山宏幸(音楽家・俳優)、福原冠(俳優)、芳友会(備中神楽)、山口佳子(パフォーマー)

参加クリエイター

青木兼治(映像)、加賀雅俊(写真)、さんぴん(創作協力)

主催

東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、岡山県

後援

倉敷市

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